ネタバレ注意
<改訂版(最新の文章)>
この映画のキーワードは「円」。原題にあるCirculoも円の意。冒頭で父が言う…全てに始まりと終りがあり永遠などない、と。息子は全てがそうとは限らないと反論。アナとオットーは「永遠の愛」を探し求める。永遠には終りがなく、だから始まりもない。だから映画でも時系列をわざと壊した(最初にラスト近くのシーンがある)編集をしてる。円環構造の物語。二人の各々の左右対象の名前は、最初と最後をつなげると円のように永遠に続く。始まりも終りもない。
後半ロケ地フィンランド(=終りの地の意味 この世の果て、だね)…終りの地なのに北極圏の太陽は沈まず(終らず)、円を描いて地平線上をただ周回するだけ。やはり円環構造。巡り巡る偶然の積み重ね。それは単に偶然だけではなく、時には二人の意思に基づく必然部分さえもある。親を再婚させるきっかけとかね。公園の追いかけっこ、交通事故、紙飛行機、ハートのクリスマスプレゼント、パイロットの不時着、地図の名前、勇気を出して窓から…のメッセージ:皆、繋がってる。永遠の愛。好きな映画です。
<過去の文章>
「ルシアとSEX」と同様、フリオ・メデム監督のスペイン映画。主演ナイワ・ニムリ(「ルシアとSEX」では島のペンションの女主人役、「アナとオットー」では成長したアナ役)。
生前のスタンリー・キューブリック監督が絶賛したというメデム監督。僕個人にとっては、ここ数年ではまれにみる最高傑作の一つ。まあ、この映画は内省的な雰囲気が強すぎて好きではないという人も世の中にはいそうだけど、だまされたと思って一度は挑戦して欲しい。それぐらい、超オススメ!
集中して観れば観るほど、それぞれの設定やセリフから小道具の細部に至るまで、時間軸を超えて何かが別の何かとつながっていることがわかるだろう。だから漫然と眺めるのではなく、気力体力を集中させて鑑賞すべき映画だ。メデム監督お得意の輪廻転生ストーリー。人生は偶然の積み重ね、そして積み重なった偶然は、もはやただの偶然ではなく必然(=運命)ではあるまいか・・・・・。時間と空間をいくつも交錯させ、次々と偶然を提示して巡り巡るストーリー構成をとった脚本と編集は本当にお見事です。かといって、観ていて決してややこしくて難解な構成ではない。映像技術や脚本構成だけでなく、芸術性やテーマも含めて、これほどまでのハイレベルな映画はここ数年では観たことがない。メデム監督に第一級の賞賛を贈りたい。
ストーリー: 8歳のアナとオットーは片親どうし。二人は運命的に出会い、お互いを今後の人生で最も必要かつ重要な相手と認識する。要するにお互いに「恋をした」んですね(笑)。それ以降、二人の間では会話は非常に少ないものの、濃密で情熱的なコミュニケーションがとられていく (注: 濃密なコミュニケーションって会話だけだと思ったら違うんだよね)。そしてアナの母親とオットーの父親が結婚し、二人ははからずも義兄妹になるのだが、やがてオットーの実母の死がきっかけとなってオットーは家を出る。二人は再会できるのかどうか・・・・。出会いからクライマックスのシーンまで、17年に渡る二人の愛の軌跡が、アナとオットーそれぞれの交互のモノローグによって語られる。アルファベットで書くとアナ(ANA)もオットー(OTTO)も左右対称の名前だ。右から読んでも左から読んでも同じ名前。これは、同じ事象を別の角度から眺めるということを意味するのだろうね。過去と未来、偶然と必然、女と男、嘘と真実、親と子、永遠と命の限界、それらの対象性を具現している(・・・と僕は個人的に勝手に思うんだけどね、皆さんはどう思います?)。
とにかく、ハリウッドの大作に比べると、どうしてもスペイン映画=ちょっとマイナー、かもしれませんが、食わず嫌いにならず、一度は観てみて欲しい傑作です。
以下はこの映画について、少々「ネタバレ注意」に近い内容で、映画で使用されているセリフ、小道具、設定等の話です。直接的ネタバレじゃないけどね。読んでもいい人はスクロールして進んで下さい。読みたくない人はそこを飛ばして(意識的に無視して)次へ、(どうやって次にいくのか知らんが)進んで下さい:
****「アナとオットー」のすこーしだけネタバレ注意に近いお話/開始****
映画中の各シーンやセリフ、エピソード、小道具などにも全て意味がある。時系列を超えてそれぞれが別のシーンに重なってくる設定。映画の後半のエピソードが映画の冒頭と重なって見えたり、その逆だったりね。例えば、森の中でオットーがアナを追いかけるシーン、紙飛行機そのもの、赤いバス(又は電車)に車が突っ込む交通事故、パラシュート降下で助かった祖父オットー、「勇気を出して窓から入ってきて」のメッセージ、ハート型のクリスマスプレゼント、北欧の地図にアナの名を書くシーン、などなど。全て注意して観て欲しい。似たようなのが何回か出てくるから。すごいよ、この映画。全てが何かに関係してくる。その全てを、一本の糸を編んでセーターを仕上げるように、あるいはオーケストラを指揮するように、メデム監督は一本の映画にまとめ上げた。賞賛!
そして原題は「北極圏の恋人たち」という意味なんだって。監督のインタビュー記事を読むと、脚本の設定上、主役二人のキャラクターがパワフルすぎて、映画のクライマックスはそれにふさわしい舞台に持っていかないと、二人に負けてしまうような気がしたんだと。そこで選ばれたのが、さいはての地、フィンランド。映画でも「フィンランド」は普通にアルファベットをつづるんじゃなくて、確か「Fin-landia」?とか何とか意味深につづられているシーンが出てきたと思う。Finは終りと言う意味。さいはての地、この世の果て、だね。こってるというか、センス良いというか、考えすぎというか(笑)。そう、この世の果て(=北極圏)で恋人たちは最後に何を見、何を感じたのかってことだね。
****「アナとオットー」少しネタバレ注意に近い部分/終り*****