2009年6月6日(土) 午後。
雨の中、
鎌倉 由比ヶ浜の某カフェへ。
今回は電車で。
以前この近くにあった「お酒の神様」というバーの元マスターが、
今はこの某カフェの店長さんをやっている。
それがわかって、彼の作るカクテルを飲みに やってきた。
久しぶりに再会。
めでたい。
ファンとしての願いは叶い、現実となった。
海側を背にしてカウンター席に座り、
ジントニック、そして
マスターのいつもの青いオリジナルカクテルを。
約3週間ぶりのアルコールたちが体に入っていく。
ビートルズのサージェントペパーズロンリーハーツクラブバンドが
心地良い音量で
BOSEのスピーカーから流れてくる。
時々横向きになりながら
後ろにある海を見つめる。
鉛色の海、結構好きだったりする。
小降りの雨も、わりと好きだったりする。
イギリスを思い出すからだろうかね。
海の方を見るということは、
開け放たれた入口の方を店内から見るということでもある。
そのシーンは、
まるでホウ・シャオシェン監督の
映画 「百年恋歌」 の
ビリヤード店の出入り口のシーンにそっくりな構図と光の加減だ。
僕の網膜に映っている今この瞬間のこの映像と、
明るさの程度は、なんてステキなんだろう。
お店の隅の席ではメガネをかけた超有名俳優さんが
読書をしている。
僕はふとカウンターの上の方へ視線を向ける。
さりげなく棚の端っこに
ゴロワーズのパッケージが置かれている。
手にとって見る。
昔のデザインのヤツ。
サインがある。
ん?
マスターが教えてくれる。
「あぁ、それムッシュかまやつさんのサインですよ」
この日、僕はゴロワーズではなく、マルボロライトメンソールだった。
お酒はまだまだ続く。
由比ヶ浜という空間では時間の流れるスピード感が、
都内とは全然違うから。
時間を忘れて飲みたくなる空間なのだ。
ペルノー2杯、いや3杯だっけ、そしてビールをジョッキで2杯。
ヘンリー・ミラーの、
人間には時間よりも空間が必要なのだ、
(「北回帰線」のラスト)
というフレーズが説得力を伴って頭に浮かぶ。
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そうだ、
今すぐ はるか彼方の異空間に瞬間移動しよう。
その異空間に居る月子さん(仮名)に
キスをしたい。
お互いの舌を吸いあう、濃厚なキスを。
月子さんは僕の舌と唾液をいとおしく吸い続けてくれることだろう。
そしてそれにも飽き足らず、
月子さんは僕の股間に顔をうずめ、
喉の奥深くまで僕自身をくわえ込むだろう。
僕が果てるまで
快感と興奮の頂点で僕自身の命を発射するまで
その官能の行為はずっと続くことだろう――。
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酔っ払っている。
妄想だ。
いい感じの、酔っ払いの午後だ。
精神の起伏が激しい今の僕には、
女性を性的に妄想することさえ、健全で良い兆しなのだ。
昼間の酒は 心に良い。
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別の妄想がもう一つ続く。
ブラジルだかバリ島だかにいるような光景。
なぜか砂浜で地元の、褐色の肌をした仲間たちと、
酒を飲み、歌い、祈り、踊っている。
ときに僕は褐色の女性とセックスをする。
けれど僕は一人身で生活しているようなのだ。
やがて聖ザビエルのようなヒゲを生やし聖なる衣装をまとった僕は、
ブラジルかどこかの教会で
仲間たちの悩みを真摯に聞いている。
僕の体は まるで Conduit(導管)か半導体のように
彼らの悩みや問題を吸収してあげ、浄化したあと通り抜けさせていく。
僕のさだめは、セックスを大いに肯定する聖職者なのか。
誰かがつぶやく――。
今は1960年5月なのだ、と――。
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・・・・・ いつのまにかお店の音楽は
けだるいレゲエに変わっている。
いいな、このレゲエ。
僕はいったいどこを、さ迷っているのだろう。
どの空間を。
時代など関係ない。
僕が生まれる前の、1960年であろうと、
2009年であろうと、
2046年であろうと、
どうでもいい。
どこにいるのか が問題なのだ。
空間だ。
ウォン・カーウァイ監督の3つの映画。
「欲望の翼」 (1960年代の香港、フィリピン)
「花様年華」 (1962年の香港、上海、シンガポール)
「2046」 (1960年代の香港、2046年を舞台にした小説)
どの作品も大好きだ。
時間軸も大事だけど、
それよりも空間の視点で思考していたい。
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僕にとっては、
少なくとも鎌倉あたりの空間とは
相性がいいのかもしれない。
マスターはいつも
時間の概念など取っ払った
味わい深い、良い空間を提供してくれる。
それはこの日も変わらない。
マスター、ありがとうございます。
僕のコンディションは一進一退。
心が風邪を引いている感じ。
少しずつ、少しずつ、だな。
―― お店を出たら、もう雨は上がっていた。
R134沿いを
曇り空と海を見ながら
ゆっくり
歩く。
♪ テーマ曲 「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」 by かまやつひろし ♪
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