オススメするかしないかギリギリの惜しい映画だけど、あまりオススメしたくない。舞台は東ドイツの東ベルリン。ベルリンの壁が崩壊する前夜、心臓発作で倒れた母。その後昏睡状態が数ヶ月続く間に、東西ドイツは統一に向かって進んでいく。西側から流入するコカ・コーラやバーガー・キング、音楽、ファッションなどの生活文化。昏睡から覚めた病床の母を驚かせないようにと、元の旧東ベルリンの社会主義ライフスタイルを演出しようと躍起になる主人公の男の子。彼の演出する旧東ベルリンは、映画的にはある意味でポップ・アートのようにカッコよく映る。ヘリコプターがレーニン像を吊るして街なかを運ぶシーンは象徴的だ。映画とは直接関係ないけど、ピンクフロイドの、豚が工場の上を飛んでいるジャケットのアルバムを思い出したほど。
この映画の作者の、旧東ドイツという、かつては存在した一つの国に対する愛着やオマージュでいっぱいの映画であるのは確かだろう。ハリウッドのおバカ大作映画ではできないタイプの、良質な作品。それはそれで良い。ただし、この映画の作者はいわゆる「お人好し」なのかもしれない。人間とは本来はもっと性悪で意地悪でドロドロしたものではなかろうか。この映画には悪人が少な過ぎ。もう少し登場人物に多様性があって、意地悪なヤツがいたっていいでしょうに。だから本質的な部分で何となくオススメしづらいのだ。