オススメ映画第19弾。
今回のオススメ映画はこんな感じ↓。
<オススメ映画>
「ポロック」(2000)
アメリカ現代アートの巨匠ジャクソン・ポロックの半生を描く。準備に10年を費やしたという制作(共同)・監督・主演のエド・ハリスに賛辞を贈りたい。地味ではあるが質の高いドラマを丹念に地道に作り上げている。ポロックを支える妻を演じるマーシャ・ゲイ・ハーデンはこの作品でアカデミー助演女優賞を獲得。名演技。美人でスタイルがいいだけの女優では務まらなかっただろうと思われるぐらい、人間性がにじみ出るような深みのある演技だと思う(MGハーデンがブスだってはっきり言ってるわけじゃないんだけど・・・そう聞こえますよね?)。アルコールにおぼれ、狂気の沙汰に落ちてゆくポロックを演じたエド・ハリスもいい演技をみせる。何より、ポロックが絵を描く一連のシーンは最高だ。床に置いたカンヴァスに絵の具を直接落としたり、ぶっかけたりする「ドロップ・ペインティング」の手法が分かりやすく描かれている。ポロックの絵はタイプとしては抽象画やキュービズムなどの分野に入るらしいので、そもそも理解しにくい作風かもしれない。その意味で、一般の映画ファンには絵を制作するシーンが分かりやすく描かれているということは、とてもよかったという気がする。ま、理解できなくても感じることのできる絵であればいいと思うけどね。画面の色彩も素晴らしい。特に黄色や青、赤などが良かった。画家の半生を描くのだから色彩なんか特に注目されてしまうわけですけどね。願わくば、こういう良質の映画が日本でももう少し早く公開され、ビデオ化されることを希望したい(アメリカでの制作・公開は2000年、日本公開は2003年11月ごろにやっと)。日本の配給会社たちからは少々地味で売れないと思われたのかもしれないけど、地味な映画が悪いわけでもないし、売れないとも限らない。良質でオススメだ。裏切らない、手堅い演出。
「彼女を見ればわかること」(2003?)
監督・脚本ロドリゴ・ガルシア。この映画の脚本はかなりレベルが高い。傑作です。女性ファンには特に受けるかもしれない。ガルシアはこれが初監督作だという。とても初めてとは思えない完成度の高さ。それぞれ女性を主人公にした5つのエピソードからなる。登場人物のうち何人かは互いに別のエピソードにも少しずつ登場するので、そういう点にも注目して観たい。舞台はLA。離婚歴があり、老母の介護をする女医(グレン・クローズ)、妻子ある男性と不倫中の女性銀行支店長(ホリー・ハンター)、近所に引っ越してきた超チビの男性に興味を持つシングルマザー(キャシー・ベイカー)、死期が迫ったレズビアンの恋人を世話する女占い師(キャリスタ・フロックハート)、盲目の妹(キャメロン・ディアス)と同居する刑事の姉。
映画のタイトルに惑わされてはいけない。彼女たちの外見だけからは分かりようもない悩みがそれぞれにあるのだ、っていう反語のタイトルなのだから。そしてどのエピソードにも共通することが3点。主人公が女性であること。誰かが誰かを世話し世話されているという関係があること。悩みを持つ主人公たちがその悩みを映画の中では直接的なセリフとしては一切語らないこと。
女性の心理をこれほどまでに上手く描いたのは、女性ではなく男性の監督・脚本家だったというのも意外ですよね。Gクローズの表情、Hハンターの小悪魔的な雰囲気など、女優たちはとてもいい。アメリカ映画にありがちな、明快だけど単純すぎる答え・解決方法を、最後まで用意していないところも、この映画の良い点かもしれない。男性俳優たちのキャスティングや存在感が今ひとつ、という気もしましたが、この映画のテーマからしてそれもいいのだということでしょうかね。
「ブラザーフッド」(2004)
戦争映画だけど例外的にオススメに入れたい。韓国映画。戦争とは狂気である。その狂気を逃げることなく描いている。骨太で正面から映画の観客に挑んでくるような、一本筋の通った映画だ。全ての韓国映画を観てるわけじゃないけど、なんだか韓国映画ってすごく頑張っているのが多いような気がする。
朝鮮戦争に徴兵された兄弟が主人公。兄は弟を無事に家に帰すために敢えて危険な任務ばかり買って出る。勲章を得て弟の除隊を願い出るためだ。弟は弟で、そんなことはやめろと対立する。兄にとっては国家体制も共産主義も帝国主義も、何の意味も持たない。イデオロギーや国家などよりも、弟を生かすことの方がよっぽど大切なことだからだ。そういう視点からこの映画を制作したのは正解だったと思う。かといって、兄弟愛や家族愛に偏った甘いだけのメロドラマにせずに、歴史的な出来事をできるだけきちんとハードに描こうとした姿勢やストーリー展開にも好感が持てる。
戦闘シーンはハリウッド映画に負けていない。すごい。大掛かりで、兵士が傷つき死んでゆく描写はかなりどぎつい。心臓の弱い人なら、兵士の腕や足がもがれ、銃弾を受けたお腹にうじ虫がわいているシーン等は観ない方がいいかもしれない、というほどリアル。戦闘シーンだけは「プライベート・ライアン」のそれを思い起こさせるような、粒子の粗いフィルムで色彩を抑え目にし、少ないコマ割りで表現されている。音響も含めてよくここまでやるなという感じ。戦争とは狂気であると、映画の観客の感性全体に訴えかけるような映像。映画館の大きいスクリーンと音響設備で観た方が望ましい作品だ。
兄役のチャン・ドンゴンの目つきがいい。大作の主演を張る俳優にふさわしい。顔がちょっと大きめだけど(・・・・チャン・ドンゴンって極楽トンボの加藤浩次に少し雰囲気が似てるかもしれないと言ったらチャン・ドンゴンのファンに袋叩きにあいそうですね・・・・)。弟役のウォンビンもいい。学生服姿ではナイーブで弱々しい少年風だったけど、参戦してからはだんだんとたくましくなっていく様を見事に表現している。難点としては、そうですねえ、時々BGMがわざとらしいほどのメロドラマ風音楽だったことと、大作にありがちな、上映時間がちょっと長め(2時間半)だったことぐらいかな。ムダに冗長な長さとは思わないけどね。ラストでは久しぶりに映画館で人目もはばからずに泣いてしまった。ヒューマニズムなら何でも礼賛するわけじゃないけど、兄弟や家族を大切にすること、親を敬うこと、そいう儒教的な教えって、いいものだと思った。それをいとも簡単に踏みにじることのできる国家体制やイデオロギーは、それがどんな主義主張であるにせよ、どんな時代であるにせよ、一般庶民にとってはとても恐ろしいだけのものなのだ。恐怖と狂気の朝鮮戦争。
「座頭市」(2003 北野武監督版)
遅まきながらやっと観た。北野映画だという以外にはとりたてて期待していなかった映画だけに、実際に観てみたらかなり面白かったのは収穫だった。観る前にあんまり偏見持たない方がいいという典型かもしれない。ありふれた言い方ですが、やはり北野武は映画人としてもただ者ではない。既に世間に浸透している勝新太郎の座頭市キャラのように、優しくて人間くさいところから離れて、人を斬ることに徹したクールな北野武なりの座頭市キャラを出せたのがこの映画の成功要因だろうと思う。勝新の座頭市とは全く違う人物設定でよかった。もし同じ土俵で比較されたらやっぱり勝新の座頭市の方がいいんじゃないかってことになりがちだからね。
浅野忠信を真上から撮ってワンカットで12人斬りさせるシーンはすごい。リズムに合わせて農民が畑にクワを入れるシーン、全体の色彩を抑え目にしたフィルムの質感なども素晴らしいと思う。色彩を抑え目のフィルムという言い方が正しいかどうか分かりませんが、業界の専門用語では「銀残し」という手法だそうです。「アカルイミライ」でもたぶん同じ手法が使われてたんじゃないかと思うんだけど、違ってたらすんません。タップダンスのシーンについては、映画のストーリー自体に何の関係もないとか、時代劇にタップダンスなんて意味が分からないという意見もあったようですが、これも人間の気持ちの高ぶり(=感動)を伝える手法としては大賛成のアイデア。ストーリーに一見関係なさそうでも、意味が分からなくても、何かを感じられれば作品としては成功だと思う。一見関係なさそうと言ったけど、絶対的に関係ないなんて誰にも断言できないだろうしね。ガダルカナル・タカがけっこういい演技を見せるヨ。
「カリフォルニア KARIFORNIA」(1993)
ロード・ムービー。アメリカ東部のカップルがフォトブックを創るための取材として全米にある殺人事件の現場を車で訪ねてまわろうとする。最終目的地はカリフォルニア。ガソリン代を節約するためにもう一組のカップルを募る。そこにやって来るのがブラッド・ピットとジュリエット・ルイス。この二人は何かにつけてハチャメチャである。特に行く先々で強盗&殺人を犯すブラッド・ピット。彼がこういう汚れ役をやったこともあるなんて、今のファンからは想像しにくいかもしれないですね。4人で旅をしていくのですが、乾いたアメリカの大地を映した映像がいい。ロードムービーならではの感覚。そして映画の観客さえも突き放したような理由なきバイオレンス行動。行き着く先は夢のカリフォルニアか、あるいはこの世の果てか(ネバダとカリフォルニアの州境の核実験場跡)。頭の悪そうな薄幸の少女を演じるJルイスが素晴らしい。若くして既に演技派の彼女。この作品だけでなく、「ケープ・フィアー」、「ギルバートグレイブ」、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」、「誘拐犯」などでの名演技もいいですよ。この映画の良くないところは、敢えて言えば、バイオレンスや狂気以外に何を描きたかったのか意味不明というところと、フォトブックを創ろうとした、まともな方のカップルはもうちっと早く逃げられたのでは、という映画の設定自体に対する現実的な疑問があるということでしょうかね。ま、それもいいのかも。一種の暴力的なおとぎ話ですからね、こういう作品は。
「ヘブン・アンド・アース 天地英雄」(2003)
中国映画。チアン・ウェン、中井貴一主演。7世紀唐時代の中国が舞台。捕虜にした女子供を殺せという将軍に逆らって西域に出奔した李(チアン・ウェン)を追跡し殺害するよう、皇帝の命を受けた日本人遣唐使の来栖(中井貴一)。シルクロードを舞台にした物語。
良いところ:
・戦闘シーンだけでなく、全体的に華やかで良いロケーションをしている撮影。一昔前の中国映画の映像にあるような、ダサさがない。
・中井貴一は本当によくやっている。存在感を出した名演技。好演。
・登場人物たちの着ている鎧がどれも現代的というか、デザインがかっこよくて色も鮮やか。時代考証が適切かどうかはさておき、ですが。
・トルコ人、日本人、中国人など、出てくる人物たちが国際色豊か。あの時代のシルクロードの国際性が出ていていいですね。
良くないところ:
・スローモーションを少々使い過ぎ、かな。
・安易にCGや特殊効果を使わなくても、この映画は良質の作風に仕上がったと思うのだがなあ。あのCG処理は返って興冷めだよ。
「女はみんな生きている」(2003)
仏映画。組織に追われて重症を追った娼婦を助ける主婦。物語は娼婦と主婦の、組織からのサバイバル・ゲームである。どこかコミカルでユーモアがあるヨーロッパ的な映画。退屈しない、メリハリの利いた展開。これは女性に特に受けるだろうなぁ。娼婦が自分の過去を独白するくだりはシリアスでとてもいい。その後の展開に説得力を持たせるのに充分なエピソードだ。主婦の夫や息子は、彼女を家政婦程度にしか思っていない。息子は自分の生活にも怠惰だし、二股をかけているガールフレンドたちに対しても不誠実。夫は夫で妻にアイロンがけや洗い物などを早くやれと言うだけであって、家族にも実の母親にも冷たい。主婦は内面的には爆発寸前だったのである。一方、娼婦の家族も男性を徹底的に悪く描いている。娼婦の父は結納金欲しさに娼婦やその妹をアルジェのおっさんと結婚させようと売り渡そうとするし、オトコの兄弟は姉(娼婦)や妹に偉そうに食事の用意を命令するだけである。そう、オトコはとんでもなく悪くてくだらない生き物という視点だ。これは女性監督による、アホな男性たちに反旗を翻す女性の痛快な物語だ。ほぼ同世代の、したたかで百戦錬磨の娼婦と、その日暮らしで遊びほうけるだけの息子のガールフレンドたちを暗に対比させているのも良い設定ですね。
あまり目立たない部分なのですが、主婦の暮らしているアパルトマン内のシーンで、壁に書画がかかっているカットがあります。その書は「福」という一字なのですが、上下逆さまにかかっている。これを作者が無意識にやったのだとしたら小道具の使い方が中途半端というかなってないわけだけど、もし意図的に逆さまにしたのなら、ユーモアたっぷりで秀逸だと思う。幸福の反対に位置する主婦の状況にぴったりの表現だからね。
この手の映画は、カップルで観るにはあまりオススメしないけど、一人で深夜にクスっと笑いながら、でも心のどこかで真剣に考えながら観てしまう、そういう傑作ではないかと思います(笑)。
「木更津キャッツアイ」
日本映画。単純に(ギャグも含めて)面白い。6歳になる甥っ子が僕の借りてきたビデオを気に入ってずっと観ていたほど。
特に編集が良いね。あるシーンから一定時点まで早送りで戻ってまた別の視点で描くところなどはタランティーノを意識しているのか?主演の岡田クンっていいねえ。V6なんかにしておくのはもったいない、と言ったらファンに怒られまくりだろうけどね。
「顔役暁に死す」(1961)
1961年東宝。カラー作品。原作・大藪春彦、監督・岡本喜八、主演・加山雄三。
ストーリー: アラスカから5年ぶりに倉岡市(架空の地方都市、出てくる車が「静」ナンバーだからおそらく静岡を想定?)に戻ってきた次郎(加山)。前市長だった次郎の父親が狙撃によって死亡したため、その真相を突き止めようとする。地元ヤクザの抗争を下敷きに、軽快かつスピーディーな岡本監督の演出が冴える。
実はこの作品、オススメ映画シリーズ第2弾で既にご紹介済みですが、僕自身、TV放映で一度観ただけでものすごく気に入ったもの。今までビデオ化もDVD化もされていないから、皆さんにご覧になって頂きたいと言ってもTV放映でもない限り実はほとんど不可能なのでした。すんませんね。それをまた性懲りもなくここでオススメしてしまうのは、最近、都内の某名画座まで足を運んでこの作品を観ることができたから。やはり、たいていの邦画なら今後も映画館で観るチャンスが意外にあるかもしれないと思ったわけです。この映画の出演者の1人、中谷一郎の追悼特集がその名画座で組まれてて、そのうちの一本でした。映画館で改めてフィルムを集中して観たら良い所がいっぱいありました。もちろん、ダサくて良くないところも。超オススメのアクション映画。昭和30年代の日本のアクション映画を今の時代に映画館で観ること自体、ちょっとオシャレだと思いませんか?
↓ ここからネタバレ注意 ↓
良い所:
・演出と編集がスピーディーで小気味いい。日本映画にしては珍しいくらいだらけた感じがしない、テキパキした映画。
・小道具の使い方やそれを撮るカメラのアングルがいい。ライター、写真(ネタバレになるので詳しくは書きません)、ライフルの薬きょうなど。
・根本刑事(堺左千夫)が手を震わせるシーンで手をアップで映し、過去に遡って「その手」がしでかした過ちをたどるシーン。
・次郎(加山雄三)が取調室によくあるような卓上ライトをがんがん叩いて本職の警部をやりこめるシーン。取り調べてるのは実質的に主人公の次郎だと暗示してる。
・次郎の父の後妻にあたる久子(島崎雪子)がすごく色っぽくていい女。昔にもいたんですね、こんなにフェロモンいっぱいの女優さん。この女優さんを映画館のスクリーンで観るだけでもこの映画を観る価値がある、と僕は独断と偏見で主張します(笑)。単にお前の好みなだけだろ、と言うなかれ。観ればその存在の良さが分かるはず。ちなみに島崎雪子は「七人の侍」にも出ているし、実生活ではあの神代辰巳監督と結婚していた時期もあります。
・中丸忠雄は今で言うと、ジョン・トラボルタ系の顔つき。笑ってしまうほど。トラボルタのファンには悪いけど、爆笑モンです。
・元ボクサーの用心棒役の俳優が、怖いぐらい「いってる」感じを出してて、その怪優ぶりというか気持ち悪い存在感がいい。
・田中邦衛の着ているスーツから少しだけ見えるベストの赤い色がステキ。鮮やかでいい「赤」です。
・トラックを修理しているヤクザの組員二人のシーン。上から撮っているのですが、二人で修理しているけど、1人は頭だけ、もう1人は足だけ出しているから、胴体の長い1人だけが修理しているように見えてしまう、冗談っぽいアングルの演出が素晴らしい。
良くない所:
・狙撃犯スナイパー役の中谷一郎はミスキャスト。顔つきが優しすぎて、暗黒街の人間に見えない。さらに脚本上の設定とはいえ、主人公と仲良くなりすぎ。気持ち悪い。
・セリフがわざとらしいのはこの手の映画によくあることとして我慢もするが、普通に話してるセリフの途中でいきなり大声で怒鳴るのはいかにも不自然。
・加山雄三のお坊ちゃま度はとてもいいのだけど、彼が主演じゃ、ハードボイルドな感じが出ずに、かえって青春してしまう危うさがある。しょせん、アクションは日活が最高なのだと思わせてしまっては元も子もないのだが、そう感じざるを得ない。(ただし、この作品自体は僕はすごく好きです。)
↑ ネタバレ注意 終り ↑
<オススメしない映画>
オススメ映画の場合には何でもほめれば(実際はそんなことはないんですけど)、とりあえず形にはなる。上の<オススメ映画>も良い点がクローズアップされがちの内容だと思う。でも観た映画を全部ほめてるわけじゃなくてその中から何本か厳選していること、決して甘口評価ばかりじゃないことをお分かり頂くには、時々オススメしない映画を出すのもいいかなと思って出しています。今回も出しましょう。ここからはオススメしない映画です。
「ハルク」
原作がアメリカン・コミックものは何でもダメってわけじゃないんですが・・・ダメな場合が多いような気がするなぁ。これもダメだった。特殊効果や音響はさすがハリウッド映画。そこは見事ですけど。科学技術の悪用というテーマをもう少し掘り下げて上手く描いて欲しかったのと、ハルクがあそこまで米軍に攻撃され、嫌われると、悲劇の主人公としてなんだか爽快感のないアクション映画、くらーい特殊効果映画になってしまうのですね。だからイヤ。
「女と女と井戸の中」
かなり業界では評判になったオーストラリア映画らしい。青を基調にした映像や、坂口安吾を思わせるような寓話的でシュールなストーリー展開はそれなりに高い評価をされてしかるべきだろう。しかし・・・・僕にとっては全体的に静か過ぎて退屈で、何を表現したいのかあまりよく分からなかった。芸術性は高そうですが、どうも観念的というか、主人公の行動に必然性や理由を見出しにくく、感じるところがなかった。分からない映画でも感じることのできる映画なら良かったのですが。せっかく勧めてくれた映画通の友人には悪いのですが、残念です。
「800 Two Lap Runners」
あまりにも魅力的だった川島誠の原作の良さを生かしきっていない。これではセックスと同性愛と近親相姦をスパイスにしただけの単なる青春メロドラマにしか見えない。製作スタッフはかなり頑張ったんだろうけど・・・。野村祐人はミスキャストかもしれない。図々しいほどの野性的男子生徒役としては悪くはないが、どうも原作のイメージに引きづられると、今ひとつかなあ、という気もする。本人がよくやっていたのは感じられたけど。野村祐人がやった龍二の役は例えば、20歳位の頃の高島政宏あたりなんかの方が良いんじゃないかと思った。女性ハードル競技者役も、ひいき目に見ても走るフォームがシロウトすぎる。さすがに走るフォームのきれいな陸上部出身の鈴木京香をキャスティングせよとまでは思わんが(「サトラレ」参照、明らかに演じる役とキャラが違うからねぇ・・・)、もっともっと陸上競技の経験ある役者をキャスティングして欲しかったなぁ。いや、実はあれでも陸上経験者を選んだんだと言われたら、もう返す言葉もないですが。 野村祐人が友人の妹とラブホテルでカラオケするシーンは、省けとは言わないけど、歌っているシーンをフルコーラスで流す必然性が分からなかった。あんなの途中で切れよ。主人公二人がトラックを走るシーンは、さすがにあれでは遅すぎるでしょう。周りの他の競技者役の方がホントはもっと速く走れそうという気がしてくるぐらいだ。でも良いところもあるよ。松岡俊介という俳優そのものを発掘できたことと、野村祐人が川崎近辺の夜明けの街中をひたすら走るシーンが秀逸だったこと。こういうのはいいね。
(注)
毎回言ってますが、僕も全ての映画を観てるわけじゃないので、こういう映画がオススメの全てではなくて、他にもいい映画はいっぱいあります。それに映画は人それぞれに好き嫌いがあって、別の作品を好む人もいると思います。そもそも映画なんてそんなに小難しく考え込んで観るものじゃないだろうからね。あくまでこのシリーズは、最近の映画や、少し昔の映画でもマイナーで注目されにくい作品などを中心に、皆さんのご参考までに一部をご紹介する、ということで。
そしてこれも毎回言ってますが、次のような映画はここでは除いています。
・既に有名なクラッシック作品(かなりの本数を観てはいますが、いろんなメディアで紹介済だから)。
・ミュージカル(セリフが音楽に乗って出てくるけど、そのセリフが聞き取れなくてもどかしいから)。
・ゴダールやW.アレンの作品(要するに好きではないから)
・その他、ポルノ、スプラッター、ホラー、戦争もの、ハリウッド的おばか大作映画なども除きます。
今回は以上です。皆さんも映画や音楽をお楽しみ下さいませ。