僕はあの日の夜も、どこかで酒をあおっていた。
ゴロワーズとペルノーとジャズ。
そばに女性はいない。
いつもの、 ことだ。
僕は、持っていた西東三鬼の「神戸」をカウンターの上に無造作に置き、
この、不良な男の文章のエッセンスを、
酒と共に体の中に流し込む。
三鬼の人生、なんとまぁ、無頼な生き様よ。
三鬼自身の文によると、だいたい、三鬼の三は、「飲む、ぶつ、買う」 の三つなのだと解説した文芸評論家もいるぐらいだというのだから。
三鬼の生き様を記した「神戸」は、
金子光晴の「マレー蘭印紀行」にも共通する雰囲気さえある。
南洋(シンガポール)生活の体験、オンナ、酒、様様な外国人たち、そしてその日暮しの無頼な日々。
このところ、僕は、こういう不良の文章ばかりに、惹かれてしまう。
ぎらぎらしてて、そして生き生きしているんだもの。
「神戸」の「第8話 トリメの紳士」 の中の最後の一文が、リズム感も含めて、僕はものすごく好きだ。
「どこまでつづくぬかるみぞ」
だって、それまでの、泥沼のような腐れ縁の関係とその経緯からは、ラストはこの一文しか浮かばないだろうなぁというほどの、鮮やかにぎらついた一文だからだ。
どこまでつづくぬかるみぞ、か。
どこまで?
どこまでだろうねぇ・・・・。
♪ テーマ曲 「Faithfully」 by Journey♪
参考書籍:
「神戸」 by 西東三鬼
「マレー蘭印紀行」 by 金子光晴